第六回 ホルモン検査はどうしてするのでしょうか?

検査や治療中に、ホルモン値の測定(血液検査)を再々お願いすることがあります。

「何故そのような検査をするのか」「結果はどうであったか」など、できるだけわかりやすい説明を心がけていますが、なかなか皆さんにはわかりにくいことが多いと思います。

この場を借りて、少しでも皆さんのご理解の助けになることを願っています。

 

<本日の質問>

ホルモン検査はどうしてするのでしょうか?

 

<回答>

女性の生理周期に直接関連の深いホルモンを分泌する器官は脳(視床下部や下垂体)や卵巣で、これらから分泌されるホルモン同士が相互に作用して、生理周期を調節しています(図1)。

実際にどのように調節しているのか、皆さんが毎日つけておられます基礎体温(図2)とホルモン分泌の変化(図1、図3)をあわせてみていきましょう。

図1

I.低温期=卵胞の発育

低温期(図2⑤~⑥)では、脳下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)(図1①、図3①)によって、卵巣において卵胞(卵子の入っている袋)が刺激され、卵胞が発育します。

この過程では、卵胞内の卵子の周囲にある細胞から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン、E2)が増加し、卵胞内の卵子が成熟していきます(図1②、図3②)。

図2
図3

II.排卵

卵胞径が約20mmになると、E2の分泌がピークに達し(図1②、図3②)、脳下垂体との相互作用により、脳下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)の急激な分泌(LHサージ)がおこります(図1③、図3③)。

これによって卵子が最終的に受精可能な状態まで成熟し、LHサージ開始から1〜2日以内に排卵がおこります。排卵された成熟卵子は卵管内の精子と受精します。

この後卵胞は、LHの刺激により黄体(おうたい)とよばれる構造物に変化し、プロゲステロン(黄体ホルモン、P)とE2を分泌し始めます(図3④)。Pにより体温が低温期から高温期に移行します(図2⑦)。

 

III.高温期=黄体の形成

黄体からのPの分泌によって高温期が維持されます(図1④、図2⑧、図3④)。この時期には、受精から4~5日かけて卵管から子宮内に運ばれた受精卵が子宮内膜に着床します。Pは子宮内膜に働き、着床した受精卵の発育を助けます。

P値は、排卵後1週間頃にピークとなり、着床(妊娠)していなければ低下します。Pの低下によって、体温が低下し(図2⑨)、月経がはじまります。

 

ホルモン検査の時期と主な目的

従ってホルモン検査を行うときは、その時期によって、実施する目的は異なります。

また体調と同じように、卵巣の状態も毎周期違っていますので、検査は妊娠するまで続きます。

 

1)生理中(図2⑤)

この周期で発育することができる小さい卵胞が卵巣にみえるスタート地点です。E2、FSH、LH値などを測定します。

E2値はスタート地点の卵巣(卵胞)の状態を反映し、通常50pg/ml以下です。高めの状態だと、成熟した卵子が育ちにくい可能性があります。

FSHやLH値からは、卵巣機能や排卵障害(たとえば多嚢胞性卵巣PCOなど)をみることができます。

2)排卵後(図2⑧)

受精した卵子が子宮内膜に着床し発育する重要な時期で、この時期にはP値を測定します。Pは子宮内膜を着床および妊娠に適した状態にし、妊娠継続に不可欠なホルモンです。ピーク時のP値は10ng/ml以上必要といわれています。

3)排卵期(図2⑦)

排卵時期にE2やP(ときにLH)値を検査することがあります。主な目的は、これまで準備してきた卵胞(卵子)の質や成熟の度合いをみるため、また排卵のタイミングをみるために行います。

第五回 精子について教えてください

第五回のりこ通信は「精子について」のお話です。

言葉は知っていても詳細は分かっていない人も多いのではないでしょうか?

 

<本日の質問>

精子について教えてください。

 

<回答>

皆さんご存知の通り、妊娠するには、まず女性側は“卵子(らんし)”、男性側は“精子(せいし)”と呼ばれる、それぞれの遺伝情報をもった二つの細胞が必要です。

 

精子と卵子が出会い、結合(=“受精(じゅせい)”)し、女性と男性の遺伝情報を併せ持った卵=受精卵(じゅせいらん)が発育し子宮内に宿る(=“着床(ちゃくしょう)”)ことが必要です。この“卵”が、将来生まれてくる赤ちゃんの一番初めの出発点なのです。

 

皆さんは精子についてどのようなイメージをお持ちですか?

図1のように、精子は主に頭としっぽの部分からなっています。本当に“おたまじゃくし”のようですね。

精子

 

精子の全長は約0.06mm程、頭部はその1/15程度、ほとんどは尻尾のように長い鞭毛部(主部と終片部の部分)で占められています(図1)。卵子の直径は0.1mmくらいありますので、精子の頭部はかなり小さいですね。

 

しかし、この頭部には遺伝情報が凝縮した状態ですべて詰められており、大変重要なのです。また頭部表面は、受精のために卵子へ接着・侵入するのに不可欠な、“先体(せんたい)”と呼ばれる部分に覆われています。鞭毛部は、精子の前進運動の役割を担っています。

 

精子は男性の精巣(せいそう)の精細管で72日間かけて作られます。精巣でつくられた精子は、精巣上体を約2~12日かけて通過し、精管へと運ばれます(図2)。

精巣

精巣内の精細管でつくられた精子はまだ運動することができません。精子は、精巣上体や精管を通過している間に成熟し、運動する能力を獲得します。

 

卵子と精子の大きな違いは、卵子は生まれる前につくられてからは新たにつくられないのに対し、精子は次々に新しくつくられていくことです。 卵巣にある卵子は年齢とともにどんどん減っていき、最終的には閉経期には排卵も卵子自体もなくなりますが、精子は年齢とともにその産生能力は多少衰えるものの、精巣では新たに精子をつくり続けています。

 

精管を通過し運動能を獲得した精子は、その後精嚢や前立腺などからの液体成分と合わさり、最終的に尿道から精液として射精されます(図2)。

平均2.5~3.5mlの精液の中には、1mlあたり平均1億個の精子を含んでいます。

 

射精後に体外に出された精子は、女性の生殖器官内(子宮や卵管内など)で一定時間存在することにより、卵子と受精する能力(卵子に侵入するだけの勢いのある運動性と、頭部を覆っている先体の変化)を獲得し、ようやく卵子の透明帯に接着・通過し、卵子内に侵入し、受精することができます(写真)。

精子と卵子

 

今回は男性側である精子の構造や精子形成から受精までの大まかな流れについて簡単にお話しました。妊娠はご夫婦のどちらが欠けても成立しません。お互いの体についての理解をより深めていただけたらと思います。

第四回 “通水”はなぜ必要なのでしょうか?

今回は“通水”についてとりあげました。もしかしたら皆さんにとって辛い検査や治療の一つかもしれません。少しでも“通水”についてわかっていただけたなら、うれしいです。

 

<本日の質問>

“通水”はなぜ必要なのでしょうか?

 

<回答>

“通水”とは、卵管の通過をみる検査とともに、卵管の通過や動きをよくすることもできる治療です。

卵管は、長さ10~13cm、直径0.5~1.2cmのとても細い管で、子宮の中とお腹の中をつないでいます。最も細い部分(峡部)は子宮に最も近い所にあり、最も太い部分(膨大部)は卵管の端にあります。

 

卵管の主な役割は、

1)卵子のピックアップ:卵管は本来卵巣の周囲を自由に動いて、排卵のときに卵巣からでてくる卵子をピックアップします。

2)受精の場所:卵管の一番端の最も太い部分(膨大部)で、卵管を通ってきた精子と卵子は受精します。

3)受精卵の分割と子宮内への輸送:受精卵は卵管の自力の動き(蠕動運動)により卵管を通過し、卵管内の分泌液から栄養を受けながら、分割をします。最終的には子宮の中まで運ばれ、胚盤胞(はいばんほう)という状態で子宮の内膜に着床します。

 

このように、卵管はとても重要な役割をはたしています。

HSG
写真1

この卵管の通過性を見るには、超音波や通常の内診ではわかりません。“子宮卵管造影検査(HSG:写真1)”や当院で行っている“通水”という方法で、子宮の中にカテーテルを挿入し、造影剤や生理食塩水を注入し、卵管の通過性をみます。HSGのレントゲン写真(写真1)をみると、卵管は糸のようにとても細いことがわかると思います。

このとても細い卵管が、もしさらに細くなって通りが悪くなったとしたら、またお腹の中で子宮や卵巣・腸管などに癒着しているとしたらどうでしょうか。

正常な卵管
写真2:癒着のない正常な卵管(腹腔鏡)

写真2と3は腹腔鏡(ふくくうきょう)という手術で、お腹の中を見たときの状態です。写真2は癒着のない正常な状態、一方写真3は、左卵管の周りに癒着があり、通過不良になっています。このような状態では、おそらく卵管は正常に機能できず、卵子のピックアップがうまくできなかったり、受精卵の輸送がうまくできない可能性があります。

 

卵管の癒着の主な原因としては、

1)過去のクラミジア感染などの感染症 2)過去の手術(開腹手術や盲腸の手術など) 3)子宮内膜症・・・・などです。

左卵管
写真3:癒着があり、通過不良な左卵管

もしも、通水の時に痛みが強いとしたら、それは卵管が細くなっていたり、卵管の周りに癒着の可能性があります。

何回か“通水”をすることにより、卵管は通過がよくなり、通水の度に揺り動かされて卵管の動きがよくなっていくでしょう。卵管の状態は皆さんそれぞれ違いますが、きっと何回か続けていくうちに痛みが軽減し、卵管の動きがよくなっていくと思いますよ。

第三回 排卵が近いことをどうやってわかるのでしょうか?

のりこ通信第三号です。皆さんのお役に立っていますでしょうか?

今回は、“たまご(卵子)”について少しお話ししたいと思います。

 

<本日の質問>

排卵が近いことをどうやってわかるのでしょうか?

<回答>

“たまご”は、女性にはあまりにも近い存在でありながら、実際に見えるわけではないので実感のもちにくいものだと思います。

“たまご”には、受精前の卵巣内にある状態と受精の後の状態があり、前者は卵子(らんし)”、後者は受精卵(じゅせいらん)”と呼ばれています。今回は受精前の“たまご”である、卵子のお話です。

卵子は人間の体を構成する細胞の中で、最も大きな一つの“細胞”です。

 

基礎体温表

 

最も成熟した段階の卵子の直径は0.1~0.2mmくらいで、顕微鏡でしかみることはできません。
卵子は透明帯(とうめいたい)という、にわとりの玉子でいう“殻(から)”に包まれています。実際にこの卵子が受精したあとは、この殻は破って子宮内に宿ります(着床:ちゃくしょう)。

受精前の卵子は、もちろん見ることはできませんが、卵巣内の卵胞(らんぽう)といわれる袋のなかで、徐々に排卵・受精に適した状態まで成熟していきます。

透明のオリモノが排卵の2-3日前より増えてくることは、おそらく当院に来られている方ならよくご存知だと思います。

これと同時に、皆さんのお馴染みの検査である超音波検査では、卵巣の中の卵胞の大きさや子宮の状態をみて、排卵時期を推測することができます。超音波で卵胞が1.8~2cm  くらいになっていると、排卵が近いことを示します。この状態は、卵子が成熟して、排卵・受精の準備が整いつつあるサインなのです。

 

実際の治療では、目に見えない卵巣の中の卵子がどれくらい成熟したか、卵子の質はよいか、などの度合いや、排卵の時期などを、超音波検査やホルモン検査(血液検査)、オリモノの検査を行いながら推測します。

当院では、皆さんの“基礎体温表”に卵胞の大きさや子宮の内膜の厚み、血液検査の結果などを記録しています。

一度これまでの“基礎体温表”の中で、オリモノが出た時期、基礎体温で体温が上昇に転じた時期、卵胞の大きさなどがどうだったのかなどを見直してみて下さいね。きっとこれまでがんばってつけていた“基礎体温”に本当にたくさんの情報がつまっていることがおわかりになると思います。

ぜひあなたのこれまでの記録である“基礎体温表”を大切にしてあげて下さいね。     

第二回 人工授精について教えてください

不妊治療にとって好ましくないものはたくさんありますが、ストレスもその一つです。なぜなら、女性の生理周期というものは、脳の視床下部や下垂体から分泌されるホルモンによって、卵胞(卵子の入った袋)の発育が促されますが、ストレスによりこれらのホルモンの分泌が不十分であったり、バランスを崩すことがあるからです。

普段は何かとお忙しくストレスの多い皆さんにとって、ときにはゆったりと過ごす時間もとても大事ですね。

 

<本日の質問>

人工授精について教えてください

 

<回答>

人工授精(AIH) は、より運動性のよい精子を集め、子宮の中に直接いれて、卵子と精子が出会う確立を高める治療法です。

AIHは、“人工”という言葉から、自然な妊娠とはかけ離れたものという印象を抱きがちです。

普通の性交では精子は自力で子宮頚管を通過し、子宮の中から卵管の先まで到達しますが、0.001%程度とほんの一部にすぎません。

AIHでは、精液の中から不純物を取り除き、より運動性の高い精子のみを子宮内に注入するので、通常の性交よりはずっと多くの精子が卵管にいき、卵子に出会うことができます。下の絵のように、卵管通過→受精→着床→妊娠というプロセスは、通常の性交後の妊娠と同じなのです。

したがって人工授精が、決して”人工的“ではないことがおわかりになると思います。

 

子宮

【人工授精の適応は?】

①性交後試験(ヒューナーテスト)が不良

②精子の数が少ない、運動率が低いなどの精液検査に異常がある

③性交がうまくいかない(インポテンツなど)

④タイミングでなかなか妊娠しなかった

⑤卵管の周囲の癒着や子宮内膜症などの明らかな不妊原因がある

 

上に示しましたが、決して絶対的なものではありません。最終的にはご夫婦のご意見を大事に、納得のいく治療をうけてくださいね。

 

【人工授精までの手順】

主な流れは次の図のようになります。

 

流れ

 

外来で、超音波検査や基礎体温から排卵日を予測し、人工授精の予約を行います。

当日は、精液検査と同じように容器に精液を取っていただき、当院に持参していただき、1階の受付で提出してください。

精液から不純物を取り除き、運動性のよい精子のみを回収し、子宮内に入れます。麻酔などは不要です。

子宮の入り口を触った刺激により少量の出血がある場合がありますが、心配ありません。ただし、高熱や腹痛がある場合にはご連絡をお願いします。

 

第一回 不妊症かどうか、どのくらい病院へ通えばわかるのですか?

皆さん、はじめまして。 田村秀子婦人科医院副院長の田中紀子と申します。 私はこれまで生殖医療や不妊症に関わる研究や診療を行ってきました。この度、WEBサイト内に女性の健康や生殖医療に関する情報発信コーナーを作ることになりました。

これから不定期に情報配信していきたいと思っています。 皆さんの医療や健康に関する質問や疑問、あまりなじみのない生殖医療の言葉や、検査、治療などについて、少しでも皆さんに役立つ知識や情報を提供できるよう、配信していきたいと思っています。

より皆さんに不妊症の検査や治療が身近に感じられるよう、少しずつ改善していきたいと思います。皆さんからのご意見、ご要望、リクエストなど、よろしくお願いします。

<本日の質問> 不妊症かどうか、どのくらい病院へ通えばわかるのですか?

<回答> 通常の夫婦生活を営むカップルの場合、1年で約75%、2年で90%が妊娠にいたるといわれています。日本での不妊症の定義は、妊娠を希望するカップルが2年以上妊娠にいたらない場合をいいます。

とはいっても、ただ単にタイミングが合っていない場合から、明らかに原因がある場合まで、不妊症の程度は様々です。

不妊検査の主なチェックポイントを図に示しました。これらの内容を適当な時期に検査していきます。病院に来られてからしばらくは、その方本来の月経周期を観察しながら、排卵時期を推測し、タイミングを合わせていきます。と同時に、血液検査や卵管の検査(通水)、必要であれば精液検査などを適した時期に行っていきます。

チェックポイント

2〜3周期ほどみていくと、不妊の原因の一部がわかることがあります。 しかし、しばらく経過をみてわかる場合や複数ある場合、また変動がある場合などと、必ずしも一度の検査で特定されるものばかりではありません。ときには治療を行うこと自体が検査の一環であることもあります。 女性の体は感情や体調などいろいろなものに左右されています。特に卵胞(卵子の入った袋)の発育や子宮の状態、精子の状態など、毎回同じではありません。したがって、不妊症の原因は必ずしも特定できるものばかりではなく、多くは変動するものなのです。

“検査”は皆さんの体の状態に合わせて行い、そして皆さんが妊娠されるときまで継続いたします。