ストレスが不妊の大きな原因に(京都新聞)

田村秀子婦人科医院はもっぱら不妊治療を目的とした外来専門医院。人によってはかなり深刻な不妊治療も田村秀子院長は「お気楽不妊治療」と言い放つつい「もう何歳だから・・・」という悲観的になるところを「まだ、何歳なんだから」という前向きな気持ちに置き換えましょうというのが持論だ。

つまり、子どもを欲しいと思わない限り決して不健康ではない状態を、くよくよ考えずに気楽に治療しましょうという意味だ。そんな肩の力を抜くところが第一歩。周囲からのプレッシャーなど、ストレスが不妊の大きな一因になっているから、と田村院長ははいう。「私がわるいんじゃないとヨロイでがんじがらめに自分自身をガードした患者さんをいかにもみほぐすか、それが最初の大きな仕事」と。

実は院長自身、患者と共通の思いや経験を重ねている。結婚後すぐに一人目の子どもができたものの、なかなか二人目をつくるチャンスに恵まれなかった。そこで田村院長は排卵誘発剤による計画妊娠を決行、めでたく双生児を出産したのだ。また、ある時は受精卵が卵管に着床した子宮外妊娠をも体験した。そしてその後の処置としての卵管通水検査も。そのうえ、乳がんまでも患った。

「いろんな事を体験し、人生を考える時期までありました。結果的にさまざまな悩みや感情をもつ患者さんを理解できる、いい体験になったと思っていいます」と院長はしみじみ語る。
とにかく打ち明けづらい不妊の悩み。院長が同性であることの安心感に加え、治療や検査のつらさや痛みまでも同じように体験していることは、その言葉が患者にとってどれほど力強いアドバイスとなるか。心に響く重みがあることは確かだ。

 

●勇気づけられる成功シール
診察室へ続く壁面に丸いシールを貼り付けた大きな紙が張ってある。これまでに診療を受け、妊娠した人の一覧表だ。

原因や治療別に卵管通水、人工授精、排卵誘発、スプレキュア・ナサニール併用排卵誘発、体外授精とわけられそれぞれにシールがずいぶん下のほうまで伸びている。
よく見れば,左端は「田村さんと会っただけでできた人」という欄。つまり無治療で妊娠した人のことだ。

シールの数は715。「不妊の治療は医療行為が三分の一、心理的なケアが三分の一、あとは人生哲学が三分の一だと思います」(田村院長)
という言葉通り、いかに精神的な作用、ストレスの解消が大切なものかがわかる。

卵管通水とは卵管通気通水法のことで、卵巣から排卵された成熟卵を受けとめるラッパ管が癒着するなどの原因で動きづらい場合に行う治療法である。痛みを伴なう場合もあるらしいが、田村院長の体験から「個人差はあるけれども、私はそう痛みは無かった」と患者に伝える。この言葉に勇気づけられて治療を決意し、その結果シールを貼る事ができた人がざっと238人。そして田村院長が体外授精によって妊娠した人が186人。治療に通う人はこの表に励まされる.(この数字は2001年1月のデータです)

 

●高い技術を誇る体外受精・顕微授精
「普通の妊娠をあきらめ、最後にここに来るケースが多いので,患者さんの平均年齢は35歳以上。しかも勤めを持つ女性が多いため夜診のほうが通院しやすようですね。経済的にも不妊には自費治療になりますから働く女性が多いのもうなずけます」と田村院長。
夕方の開院時間には行列ができ広い待合室に同じ思いを持つ女性があふれる。

体外受精は一般の不妊治療では妊娠できないと判断さえれたカップルに適用される補助生殖医療。同院ではさらに高い技術を要する顕微授精も実施し、確実な妊娠へ向けて取り組んでいる。
同院は妊娠を目指す婦人科専門で産科は扱っていない。いったん妊娠すれば転院の必要があるが、継続診療を希望妊娠には亀岡市にある田村産婦人科(同院・本院)で引き続き診療をうけることもできる。もちろん京都市内の産院への紹介体制も万全だ。

正常な受精のため、ストレスは悪影響に、いい質の卵子と精子を

田村秀子婦人科 院長 田村秀子

 

正常な受精は、精子が子宮頚部を通って子宮体部に入り卵管の中に到達し、卵子を待ちます。卵巣の表面で一個の卵胞が破れて飛び出した卵子を卵管采がキャッチします(排卵)。すると卵子が卵管の微絨毛の働きによって運ばれ、卵胞膨大部と呼ばれる一番広い部分で精子と出会います。その時に精子が卵子を認識し、卵の中に入り込まなければいけません。これは琵琶湖の中のゴルフボールを捜すのと同じぐらい大変なことです。活性化された精子の頭の部分(先体)から蛋白融解酵素が放出され、卵子を覆っている透明帯の一部が融解し精子が入りこみます。同時に卵子の周りにバリアができ、他の精子が侵入できなくなります。卵の中で精子と卵子の核が融合して受精卵になります。

受精にはタイミングがあります。排卵された卵子は二十四時間、精子は七十二時間体内で生きていると言われていますから、約三日以内に出会えば受精が可能です。

受精後、受精卵は分割を繰り返しながら移動、三〜五日後に子宮内部に到達し、子宮内膜に着床します。着床には受精卵の質も関係しています。

一般的に受精卵が悪いというのは、例えば料理と同じで、材料が悪ければ出来上がった物はどんなに上手に作っても味が悪い、つまり卵子と精子がいい状態でないと、いい受精卵ができないのです。卵の質の低下の要因は、年齢もある程度関与しますがそれよりも影響が大きいのは精神的なストレスでしょう。卵の質が悪ければ、子宮内膜も十分育たないし着床もしにくくなります。

一方、男性もストレスがあると、精子の運動率が下がり、数も少なくなったりします。環境ホルモンによるものなのかはっきりしませんが、十年前より精子数の平均が少なくなっています。不妊原因の5割弱は精子に問題があると言われています。

不妊の原因はさまざまですが、ストレスが各機能の働きを悪くすることが多いのです。結婚したら約七割には子供ができるのですから、男性も女性も精神的に自分を追い込まないで、もっと自身を持ち、気持ちを楽に生活することが大切です。

妊娠したいと切望している貴女へ

田村秀子婦人科 院長 田村秀子

 

「どうして私だけがこんな苦労をしなくちゃならないの!」こんな思いに囚われた事はないでしょうか。友人の妊娠報告を聞いた後、暫く回りの音も聞こえず頭の中でいろいろな思いや情景がフラッシュバックして、気がつけば随分と時間が経っていた、という経験はないでしょうか。生理が来るたびトイレで天井を仰いでため息をついてはいませんか。

不妊症治療に携わる医者は異口同音に「妊娠する性格がある」といいます。それはプラス思考のできる人です。我が身に降りかかるストレスを自分に都合のよいように意義付けして消化吸収していくのです。勿論何十年もかかって培ってきた性格が変わるわけはありません。でも物事を見つめるスタンスをほんの少し変えることはできるはずです。「忘れた頃に妊娠する」とよく言われますが、これは真実です。忘れた頃というのはすなわちストレスがなくなる・プレッシャーがなくなることです。そうすれば脳内ホルモンやステロイドホルモンなどのバランスがとれ質の良い卵子が出てくるし、卵管の緊張も取れます。現実には忘れることなんてできっこないのですから、ストレスを軽減しプレッシャーを跳ね除ける努力をすればよいわけです。不妊症治療中はあせって当然です。でも漫然とあせる自分と共存してはなりません。もう38歳と思うより”まだ”38歳と思う方が気が楽です。適切な治療を受けるなら40歳も決して怖くはありません。不用意に発せられる「お子さん未だ?」という言葉を聞いても、お姑さんがもらってきた子作りのお守りを見ても、一瞬は落ち込んだらいいのです。でも次の瞬間「おっと負けてちゃいけない。私はちゃんと治療を受けてるんだ。私の今できる努力を十分にしてるんだから」と自信を持ちましょう。そしてにっこり微笑んで「ええそうなんです。夫婦仲が良過ぎるから神様がヤキモチ焼いてるんでしょうか」と言い、娘のように心配してくれている(と思い込むのがコツ)お姑さんに感謝して「ありがとうございます」と言いましょう。要は気持ちにゆとりがあれば質の良い卵子が排卵し得るのです。

不妊治療のうち医者が患者さんに与え得るのは医療と心理療法と哲学です。何で妊娠しないのか理由を考えるのは医者の仕事です。だからなかなか妊娠しないのは医者が悪いと思えばよいのです。妊娠するためには何をしたらよいかなど考える必要はありません。如何に自分に無理をせず自然体で「お気楽不妊治療期間」をすごせるか、そのためのマインドコントロールだけが患者さんの仕事なのです。長い人生の中でほんの数年与えられた試練の日々、おそらくは良い母になるための鍛錬であろうと意義付けて、私たちとともに戦い抜きましょう。