妊娠の成立と維持にも、このTh1/Th2バランスが働いています。
妊娠に適したバランスは、Th1細胞機能が低く、Th2細胞機能が高くなっています。
流産や妊娠時の合併症をひきおこすのも、このTh1/Th2バランスが壊れ、どちらかに偏りが強くなることがきっかけとも考えられています。
Th1から分泌されるサイトカインは妊娠に有害に、Th2のサイトカインは妊娠をサポートすると考えられます。
さて、2015年12月アメリカのインディアナ大学のLorenz博士の研究チームは、“排卵期だけでなく、月経周期を通じた性行為(性交)が、妊娠に有利に働く”、という内容の研究を2本発表しました。
研究①性交とTh1/Th2バランス・生殖ホルモンの関係
対象は、月経のある女性で、性交の活発な女性(週に1回以上)と不活発な(直近4か月間に全く性交がない)女性。
測定時期は、月経周期(月経期、卵胞期、排卵期、黄体期)
Th1とTh2細胞から分泌されるサイトカイン量と、エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)の女性ホルモン量を測定しました。
結果:性交の活発な女性では、黄体期(排卵後の高温相の時期)のTh2サイトカインがTh1に比べて有意に優勢でした。また、黄体期のPとP/E比ともに高い結果でした。
一方、不活発な女性では、黄体期のTh2サイトカインの優位性はみられませんでした。
研究② 性交と液性免疫である抗体(免疫グロブリン)IgAとIgGの変動との関係
液性免疫の中心である、免疫グロブリンIgAとIgGも測定しました。
IgAは、体内の異物をとらえた後、すぐに起こる免疫反応の早い段階で出現する抗体で、粘膜組織内に存在し、“異物排除“の役割を担っています。
IgGは、IgAより遅れて血中に出現し、長期間にわたって体内に残る抗体です。
結果: IgAは性交の回数と関連し、回数が多い(特に週に3回以上)女性では排卵期に減少し、 性交が週に1回や全くなかった女性では排卵期に上昇しました。
IgGは、性交のあった女性では、少ない女性に比べ、排卵期に高くなっていました。
このLorenz博士のこれらの研究より、性交そのものが、Th1/Th2バランスや、女性ホルモン、免疫グロブリンを変化させ、妊娠に有利に変えると考えられます。
性交の活発な女性では、卵胞期に外的排除に働くTh1細胞とIgAが優勢になり、排卵期にはIgAが減少、IgGが上昇。黄体期になると妊娠をサポートするように働くTh2細胞とIgGが優勢になり、加えて黄体ホルモン(P)も上昇しました。
逆に、性交の少ない女性では、排卵期に異物攻撃の時に出現するIgAが上昇し、黄体期にTh2細胞優位がみられませんでした。このことは、性交の少ない女性ほど、排卵期に入ってくる精子に対してダメージを与える作用が強く、また排卵後の黄体期は、妊娠に有利な免疫状態ではない、ことを表しています。
結果として、排卵期以外の性行為(性交)は、異物である妊娠を受け入れるように免疫的に変化させ(免疫のトレードオフ)、これにより妊娠の可能性が高まる、ことを示しています。
このことは、自然妊娠だけでなく、人工授精や体外受精の治療周期でも同じことだと思います。
“排卵期だけじゃなく、いつでも夫婦仲良く”の方が、妊娠への近道!になるということですね。