第十三回 妊娠と免疫のお話 〜排卵期だけじゃない!“いつも夫婦仲良く”が、妊娠への近道!?〜

妊娠の成立と維持にも、このTh1/Th2バランスが働いています。

妊娠に適したバランスは、Th1細胞機能が低く、Th2細胞機能が高くなっています

流産や妊娠時の合併症をひきおこすのも、このTh1/Th2バランスが壊れ、どちらかに偏りが強くなることがきっかけとも考えられています。

Th1から分泌されるサイトカインは妊娠に有害に、Th2のサイトカインは妊娠をサポートすると考えられます。

 

Th1

 

 

さて、2015年12月アメリカのインディアナ大学のLorenz博士の研究チームは、排卵期だけでなく、月経周期を通じた性行為(性交)が、妊娠に有利に働く”、という内容の研究を2本発表しました。

 

研究①性交とTh1/Th2バランス・生殖ホルモンの関係

対象は、月経のある女性で、性交の活発な女性(週に1回以上)と不活発な(直近4か月間に全く性交がない)女性

測定時期は、月経周期(月経期、卵胞期、排卵期、黄体期)

Th1とTh2細胞から分泌されるサイトカイン量と、エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)の女性ホルモン量を測定しました。

 

結果:性交の活発な女性では、黄体期(排卵後の高温相の時期)のTh2サイトカインがTh1に比べて有意に優勢でした。また、黄体期のPとP/E比ともに高い結果でした。

一方、不活発な女性では、黄体期のTh2サイトカインの優位性はみられませんでした。

 

研究② 性交と液性免疫である抗体(免疫グロブリン)IgAIgGの変動との関係

液性免疫の中心である、免疫グロブリンIgAとIgGも測定しました。

IgAは、体内の異物をとらえた後、すぐに起こる免疫反応の早い段階で出現する抗体で、粘膜組織内に存在し、“異物排除“の役割を担っています。

IgGは、IgAより遅れて血中に出現し、長期間にわたって体内に残る抗体です。

 

結果: IgAは性交の回数と関連し、回数が多い(特に週に3回以上)女性では排卵期に減少し、 性交が週に1回や全くなかった女性では排卵期に上昇しました。

IgGは、性交のあった女性では、少ない女性に比べ、排卵期に高くなっていました。

 

12回

 

 

このLorenz博士のこれらの研究より、性交そのものが、Th1/Th2バランスや、女性ホルモン、免疫グロブリンを変化させ、妊娠に有利に変えると考えられます。

性交の活発な女性では、卵胞期に外的排除に働くTh1細胞とIgAが優勢になり、排卵期にはIgAが減少、IgGが上昇。黄体期になると妊娠をサポートするように働くTh2細胞とIgGが優勢になり、加えて黄体ホルモン(P)も上昇しました。

逆に、性交の少ない女性では、排卵期に異物攻撃の時に出現するIgAが上昇し、黄体期にTh2細胞優位がみられませんでした。このことは、性交の少ない女性ほど、排卵期に入ってくる精子に対してダメージを与える作用が強く、また排卵後の黄体期は、妊娠に有利な免疫状態ではない、ことを表しています。

 

結果として、排卵期以外の性行為(性交)は、異物である妊娠を受け入れるように免疫的に変化させ(免疫のトレードオフ)、これにより妊娠の可能性が高まる、ことを示しています。

このことは、自然妊娠だけでなく、人工授精や体外受精の治療周期でも同じことだと思います。

排卵期だけじゃなく、いつでも夫婦仲良く”の方が、妊娠への近道!になるということですね。